社会保障・税番号制度(マイナンバー制度)とは?
2014年度の通常国会において、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(通称:「マイナンバー制度」)が成立しました。いわゆる「国民総背番号制度」のことです。
マイナンバー制度導入の目的は、「税務当局が個人の所得や資産など税の負担能力を正確に把握し、日本国居住者の個人情報を1つの番号で効率的に管理するため」と言われていますが、その一方では、膨大な国家の債務解消のため預金封鎖を行うための準備という見方をする有識者の方もいるようです。
マイナンバー制度は2015年の10月2日より番号通知が開始され、国籍を問わず日本国内に住民票を置いている個人に対しては12桁の個人番号を付した通知カードが、会社法等によって登記されている法人に対しては13桁の法人番号を記した通知書が順次発送されることになりました。
本制度は2016年1月より運用が開始され、現時点では個人の銀行口座情報は法定調書の対象外となっていますが、今後、所得税や相続税の申告漏れを正確に把握するため、預金口座へのマイナンバーの付番が検討されています。
本制度は当面の間、行政機関のみで利用されることになっていますが、徐々に日本国内の金融機関に預金している資産は国家に正確に把握される時代がやって来ると考えられます(2021年をめどに預金口座へのマイナンバー適用の義務付けが検討されており、金融機関は2018年から預金者に対し任意で登録の呼びかけを行うとしています)。
なお、本制度が預金口座にも適用されますと、遠隔地に作った銀行口座でさえも簡単に照会できるようになるため、銀行を通して行われていた事前贈与も脱税が発覚しやすくなります。
これまでの贈与税では年間110万円までは非課税とされていたため、たとえば300万円を贈与する場合であっても、100万円を3回に分けてそれぞれ別々の口座に振り込んでしまえば、税務当局も贈与税の対象が分かりにくいという実情がありました。
しかし、マイナンバーと銀行口座が完全に紐付けられると、全ての口座情報や資金移動は簡単に名寄せして一括りにできるようになるため、こうした行為は当局が容易に把握できることになります。
一方、こうした税務当局による監視強化の流れを受けて、マイナンバーの付番にともなう資産や所得の把握を嫌い、海外への資産逃避(キャピタルフライト)を検討される方がますます多くなるであろうと予想されます(すでに「出国税」の導入により、一部の富裕層の海外移住には租税回避対策が取られています)。
もっとも、このような事態はすでに想定済みであり、税務当局はすでに先手を打っており、国外財産や国外財産から生じる所得についても、ゆくゆくはマイナンバーを活用することが検討されています。
近い将来、5,000 万円超の海外資産を保有する日本国居住者が提出する「国外財産調書」にマイナンバーが付番されるほか、海外口座の情報共有制度が実施された段階においては、日本国外から提供される利子や配当等の情報についても、マイナンバーに付番されて税務当局に提供されることが予定されています[※1]。
なお、日本国は諸外国との間で租税条約の締結を積極的に進めていることに加え、税務当局間の情報交換が、従来型の「要請に基づく情報交換制度」から「自動的情報交換制度」に推移しています。これにより、日本国居住者の方が外国の金融機関に口座を開き、資金の預け入れを行うと、それらの情報が外国の当局から日本の当局に自動的に通知され、それによって日本の当局が情報を把握しやすくなると考えられます。
これまでは、実際問題として、海外にある金融機関の口座情報は税務当局にとっては把握することが極めて困難であり、富裕層の課税逃れが各国で問題になっていました。
しかし、今後は各国の金融機関を通じて国税当局間のネットワークで情報を共有することにより、税務当局が課税対象者の海外の口座情報を容易に取得できる時代がすぐそこまで来ています。
所得税や相続税を軽減したいのであれば、資産を隠すのではなく、租税法や条約、判例等を熟知した、より戦略的なタックスプランニングを実践すべき時代が来ているのかもしれません。
※1 100万円を超える金額を日本国内の口座から海外に送金する場合(あるいは海外からの送金を受け取る場合)、送金元(受取先)の金融機関から税務署に支払調書が提出されます。そのため、今までは、100万円を超える場合は複数回に分けて送金を行うことにより調書の提出を回避するといったケースも見られましたが、国外財産調書制度には、マイナンバーの利用が可能であると明記されていることからも、今後は原則として個人番号か法人番号が必要になります。そのため、実質的に100万円の上限規定はなくなることになります(参考:「国外送金等調書制度」)。